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千葉地方裁判所 昭和47年(ワ)520号 判決 1974年7月10日

原告 青木長平

右訴訟代理人弁護士 尾崎正吾

右訴訟復代理人弁護士 杉山忠良

被告 谷川晃

<ほか三名>

右被告ら訴訟代理人弁護士 荒木孝壬

被告 三橋喜代子

右訴訟代理人弁護士 今川一雄

同 児玉安正

同 大嶋匡

主文

一、原告が、被告谷川晃に賃貸している別紙土地目録記載(一)の土地に対する賃料は、別紙賃料目録(一)記載の、同伊藤金五郎に賃貸している同土地目録記載(二)の土地に対する賃料は、同賃料目録記載(二)の、同山口定雄に賃貸している同土地目録記載(三)の土地に対する賃料は、同賃料目録記載(三)の、同青野吉光に賃貸している同土地目録記載(四)の土地に対する賃料は、同賃料目録記載(四)の、同三橋喜代子に賃貸している同土地目録記載(五)の土地に対する賃料は、同賃料目録記載(五)の各とおりであることを確認する。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1、原告が、被告谷川晃に賃貸している別紙土地目録記載の(一)の土地に対する賃料(以下、(一)記載の土地賃料と略称し、(二)以下も同様に略称する)は、昭和四六年一月一日以降は二、五〇〇円、翌四七年七月一日以降は五、〇〇〇円(以下それぞれ同年月日以降であるが年月日は略し、金額のみ記載する)の、同伊藤金五郎に賃貸の(二)記載土地賃料は七、二〇〇円及び一四、四〇〇円の、同山口定雄に賃貸の(三)記載土地賃料は二、九〇〇円及び五、八〇〇円の同青野吉光に賃貸の(四)記載土地賃料は、二、二〇〇円及び四、四〇〇円の、同三橋喜代子に賃貸の(五)記載土地賃料は二、二〇〇円及び四、四〇〇円の、各とおりであることを確認する。

2、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決を求める。

二、請求の趣旨に対する答弁

1、原告の請求を棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1、原告は、被告谷川晃に対し、昭和三八年七月二六日、別紙土地目録記載(一)の土地を、同伊藤金五郎に対し、同年六月二七日、同目録記載(二)の土地を、同山口定雄に対し、昭和三七年一月一日、同目録記載(三)の土地を、同青野吉光に対し、昭和三七年(昭和二七年一一月頃、訴外青野純一郎に賃貸した賃貸借契約を承継)同目録記載(四)の土地を、同三橋喜代子に対し、昭和三一年七月三一日、同目録記載(五)の土地を各賃貸しており、その一ヶ月の賃料は昭和四〇年ごろの三・三平方米(一坪)当り金一五円から順次改訂され、昭和四四年度には三・三平方米当り金三七円に増額されて今日に至っている。

しかして、右被告らの土地は京成電鉄センター競馬場前駅まで三〇〇乃至四〇〇米の住宅地域である。

2、しかるに、その後一般物価の昂騰は著しく、本件周辺の土地の価格も昭和四五年一月一日現在三・三平方米当り金一四三、五五〇円に比較して翌四六年一月一日現在金一六一、七〇〇円、四七年一月一日現在金一八一、五〇〇円に上昇したのみならず、公租公課についてみても、船橋市宮本八丁目八七一番の一の土地を例にとるならば、固定資産評価額および課税標準額が昭和四四年度の金二、三〇五、八〇〇円から翌年度の金四、八七五、一二〇円と倍増するに至り、これに伴って公租公課も増額され、結局被告らの本件土地に対する賃料は昭和四六年一月一日現在において不相当に低額となった。

しかして、被告らの前記土地に対する適正賃料は昭和四六年一月一日以降は一ヶ月三・三平方米当り金一〇〇円、四七年七月一日以降は一ヶ月三・三平方米当り金二〇〇円を相当とする。

3、そこで、原告は昭和四五年一一月ごろ、口頭をもって被告らに対し、翌四六年一月一日以降の一ヶ月三・三平方米当りの賃料を金一〇〇円に増額する旨の意思表示をし、更に遅くとも翌四七年六月一九日、昭和四七年七月一日以降の一ヶ月三・三平方米当りの賃料を金二〇〇円に増額する旨の意思表示をしたので、被告らの前記土地目録(一)乃至(五)に対応する賃料月額は請求の趣旨記載のとおりになったが、被告らはこれに応じない。

4、よって、原告は被告らに対し、請求の趣旨記載のとおりの賃料の確認を求める。

二、請求原因に対する認否

(1)  被告谷川晃、同伊藤金五郎、同山口定雄、同青野吉光の認否

1、請求原因の1のうち、被告谷川、同伊藤、同山口が原告主張の日、主張の宅地を賃借し、被告青野が主張の土地を賃借し(但し賃借月日は昭和四一年一月一日)その賃料が昭和四五年七月一日から一ヶ月三・三平方米当り金三七円であることは認めるが、その余の事実は否認する。

2、同2の事実は否認する。

3、同3の事実のうち被告らが昭和四七年六月一九日、原告主張の賃料増額の意思表示を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

4、同4は争う。

(2)  被告三橋喜代子の認否

1、請求原因の1の事実のうち、被告が原告主張の宅地を主張の日賃借し、その賃料が坪当り三七円であることは認めるが、その余は不知。

2、同2の事実のうち、原告主張の土地の価格は不知、賃料額は争う。

3、同3の事実のうち、原告主張の賃料増額の意思表示のあったことは認める。

4 同4は争う。

三、被告谷川、同伊藤、同山口、同青野の主張

同被告らは、本件土地がもと畑地であり、公道から傾斜した窪地であるため、昭和四一年九月から一〇月にかけ、付近の者と共に土盛をし、下水管、U字溝を設置し、一人当り負担金一二、七五七円を支出し、完備した宅地としたものであるから、賃料額の確定につきこれら事情が斟酌されるべきである。

第三、証拠≪省略≫

理由

一、請求原因第一項のうち、被告青野を除くその余の被告らが原告主張の日、主張の宅地を賃借し、被告青野がおそくとも昭和四一年一月一日以降主張の宅地を賃借し、その賃料がおそくとも昭和四五年七月一日から一ヶ月三・三平方米当り金三七円であることについては当事者間に争いがない。

また、同3の事実のうち、原告が被告三橋に対し、その主張の日時にその主張のとおりの賃料増額の意思表示をしたこと、その余の被告らに対し、昭和四七年六月一九日、主張の賃料増額の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

二、≪証拠省略≫によれば、原告は被告三橋を除くその余の被告らに対し、昭和四五年一一月頃、主張の賃料増額の意思表示をしたことが認められる。

三、なお、本件宅地の賃貸借に対する地代家賃統制令の適用の有無については全証拠に照らしてもこれを適用すべきものとする証拠はない。

四、そこで、原告の右賃料増額の意思表示の効果について検討する。

(1)  昭和四六年一月一日以降の適正賃料について。

本件各不動産の継続賃料の適正額算出にあたっては、右時点における賃貸人に帰属すべき経済的利益としての底地価格を元本として、不動産投資の報酬利率である期待利回りを乗じ、之に賃貸借を継続するに必要な諸経費(公租公課)を加算した積算賃料を月額に配分した賃料を標準とし、当該契約の経緯、内容条件を検討し参酌し、また近隣における同類型不動産の継続に係る賃貸借事例の賃料額、過去における本件当事者間において合意が成立し協定された支払賃料額とその時期、並びに求めるべき価格時点迄の期間等総合考量して合理的に修正して算出すべきである。

以上に基いて本件土地の適正賃料について判断すると、鑑定人坂井守の鑑定の結果によれば、同四六年一月一日現在における別紙土地目録(一)の更地価額は三、五三二、八〇〇円(一平方米約四二、七五〇円)、同(二)は一〇、七一〇、四〇〇円(一平方米約四五、〇〇〇)、同(三)は四、〇九七、六〇〇円(一平方米(一)に同じ)、同(四)は三、一〇八、〇〇〇円(同)、同(五)は三、一〇八、〇〇〇円(同)であったこと、底地価額算出のための更地価格に対する底地割合を求めると、近隣地の取引事例を参酌すると五〇%が相当と考えられ、(一)は一、七六六、四〇〇円、(二)は五、三五五、二〇〇円、(三)は二、〇四八、八〇〇円、(四)は一、五五四、〇〇〇円、(五)は一、五五四、〇〇〇円となることが認められ、他にこれを左右するに足る証拠はない。

次に、本件は継続賃料の場合であるところ、新に購入した土地につき新に賃貸借契約を締結する場合は、年間五%乃至六%の利廻りとして積算賃料を算定するのが通常であろうが、前記鑑定の結果によれば、現在の地価の値上りは異常なものがあり、通常賃料はこれに追いついて行けないのが実際であり、通常底地価格の二%前後のものが多いことが認められ、従って、期待利廻り年間二%を乗じ、更に同年度公租公課は一平方米当り四〇円であるから、(一)の税額合計は三、三〇五円、(二)は九、五二〇円、(三)は三、八三四円、(四)は二、九〇八円、(五)は二、九〇八円となり、これを加算した積算賃料を月額に配分すると、(一)は三、二一九円(一平方米約三八円)、(二)は九、七一八円(一平方米約四〇円)、(三)は三、七三四円(一平方米(一)に同じ)、(四)は二、八三二円(同)、(五)は二、八三二円(同)が本件各土地に対する原則的な賃料となる。

次に前示修正要因を考えてみるに、弁論の全趣旨によれば、本件増額前の賃料協定時は昭和四五年七月頃であり、本件賃料増額時点約六ヶ月前であって、短期間における急激な増額改訂は避けるべきであること、又、前記鑑定の結果によれば、昭和四八年四月一〇日の鑑定時における近隣又は類似地域の継続賃料は三・三平方米あたり五〇円乃至一〇〇円位であること、≪証拠省略≫によれば本件(一)(二)の土地八七一番の一の土地の船橋市の評価額は昭和四四年度は二、三〇五、八〇〇円であったのに比し、昭和四五年度は、四、八七五、一二〇円となり、倍額をやや超えることが認められる。又≪証拠省略≫によれば、被告らが昭和四一年頃本件土地を若干地盛し、下水管を設置して雨水の流入を防ぎ、その費用を各自負担したことがあること、伊藤の賃借する(二)の土地は公道と私道に面する角地であり、立地条件は他より幾分良好であるが、同土地は一米位公道より低かったため、同人が自己の費用をもって公道と同一の高さに地盛して改良を加えたことが認められ、以上の事実を総合すれば、本件土地に対する賃料は、それぞれ従前の賃料額(一平方米一一円)の約倍額である一平方米あたり二二円を相当と解する(この点についての鑑定の結果は低額に過ぎると考える)。そうすると、本件土地に対する同四六年一月一日当時の適正賃料は、一ヶ月当り、(一)は一、八一八円、(二)は五、二三六円、(三)は二、一〇九円、(四)は一、六〇〇円、(五)は一、六〇〇円が各々相当であると認められる。

(2)  昭和四七年七月一日以降の適正賃料について。

鑑定人坂井守の鑑定の結果によれば、昭和四七年七月一日現在の更地価格は(一)は四、四一六、〇〇〇円(一平方米五三、四三八円)、(二)は一三、三八八、〇〇〇円(一平方米五六、二五〇円)、(三)は五、一二二、〇〇〇円(一平方米(一)に同じ)、(四)は三、八八五、〇〇〇円(同)、(五)は三、八八五、〇〇〇円(同)、そして底地価格は、前記同様その五〇%である(一)は二、二〇八、〇〇〇円、(二)は六、六九四、〇〇〇円、(三)は二、五六一、〇〇〇円、(四)は一、九四二、五〇〇円、(五)は一、九四二、五〇〇円が各々相当であると認められる。

次に右底地価格に前記同様年二%を乗じ、同年度の公租公課は一平方米当り四六円であるから、(一)は三、八〇一円、(二)は一〇、九四八円、(三)は四、四〇九円、(四)は三、三四五円、(五)は三、三四五円となり、これを加算した積算賃料を月額に配分すると、(一)は三、九九六円(一平方米四八円)(二)は一二、〇六九円(一平方米五〇円)、(三)は四、六三五円(一平方米(一)に同じ)、(四)は三、五一六円(同)、(五)は三、五一六円(同)が本件各土地に対する原則的な積算賃料となる。

鑑定の結果によれば、その修正要因として同四六年一月一日時点の支払賃料額及び近隣の上記賃料事例および同四六年一月一日から同時点までの宅地価格の上昇、諸物価高騰に伴うインフレ傾向、公租公課改訂等の経済事情を総合考慮して積算価格から三〇%を減じた一平米あたり三三円が相当であることが認められ、当裁判所もこれを相当とし、従って本件各土地に対する同四七年七月一日当時の適正賃料は一ヶ月当り、(一)は二、七二七円、(二)は七、八五四円、(三)は三、一六三円、(四)は二、四〇〇円、(五)は二、四〇〇円となる。(もっとも、現在における諸物価の高騰情勢、宅地価格の高騰状況からみて、同金額も早晩改訂されるであろうことが予測される)

(3)  従って、原告の前記増額請求の意思表示は、右の賃料額の範囲で増額の効果を生じたものである。

三、以上のとおり、原告の本訴請求中、右判示の限度内においてこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大内淑子)

<以下省略>

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